11月30日


TMSでS-520を調整する-2

さてS-520長編レポート続編です。前回は文中でも時間足らずの執筆も時間足らずで「やりっぱなし」系のレポートになってしまいました。今回は書き足りなかった前回の総括から始めます。

新品スピーカーとTMS
今回のS-520はおろしたての新品ということでデータシートの平均締付62.87cN・mが示すように比較的強めの値が確認されました。おそらく工場出荷時(生産時)には80〜100cN・mが精度の低い動力式ドライバーの開放値として設定されていたのではないでしょうか。現在工場出荷時の締付トルクを公表しているスピーカーメーカーは極少数であり、しかもその値は生産管理上の条件からのみ設定されたもので「音楽を再生するためのトルク値」ではありません。新品のスピーカーは往々にして締めすぎで鳴らない状態にあります。使用することによりネジが緩んで鳴る状態が訪れます(エージングによる音変化の6〜7割はネジの緩み)が各ネジの緩んで行く度合いには個体差があり均一に緩む訳ではありません。一般的に先に緩んだ物ほど緩みやすく格差は広がる傾向にあります。今回のデータシートからも各ユニットで1〜2本が特に緩んできている傾向が現れています。また新品ではあっても長期保管された物では逆の例も見受けられます。先日業界スタンダードの某モニタースピーカーのデッドストック新品複数台を計測するという貴重な機会に恵まれましたが全てのユニットで想像を絶する緩み具合(10〜90cN・m)に大きな衝撃を受けました。このスピーカーは工場出荷時締付トルクが公表されており(15kgf・cm=147.1cN・m)場所によっては初期値の10分の1以下まで倉庫保管中に緩んだということになります。このような例から分かるように新品のスピーカーといえども生産、流通、の両面においてユーザーの求める音楽的性能への配慮は悲しいかな成されていないのが実状です。ある意味でトルクマネージメントを行って初めてその機器の本来持つ音楽性能が発揮できると言えるでしょう。

一ヶ月半後のS-520
さて前置きが長くなりましたが調整を継続しましょう、10月後半久々の調整です。お店のS-520は50cN・mオールで日常管理されているはず。なのですが音を出してみると・・・?です。あまりに前回と違う音。散漫で明瞭度があまりにも低下している。何故?早速現状を測定します。

実測!
トルクドライバーに所定のビットをセットします。六角穴3mmと+のNo.2の二種類。基礎トルク→調査トルクの順にマネージメントソフトウェアへ入力して行きます。*USHER各シリーズはフレーム表面の塗装皮膜が柔らかく摩擦抵抗が高いため通常調整は"初回調整"モードで行います。

解析データとトルク値回復それでも謎
その結果得られたのがこのデータシート2です。フロントのネジは50cN・mで調整されていましたが背面のターミナルユニットだけはゆるゆるのバラバラ、主犯格発見。早速現在標準の50cN・mに戻しました。かなりの回復です。整合性の点では良いレベルに来ましたが若干の騒がしさと低域のダンピング不足が残ってしまいました。これは・・・?共犯者がいる!?

季節とスピーカー
実は「季節の変わり目」これがポイントです。最初の調整時は9月初頭で東京はまだ夏、そして二回目の今回は10月後半秋たけなわです。初回調整時期の湿度はだいたい60%台、対して二回目の今回は40%を切る日も出てきました。湿度差20%共犯者はこいつです。環境の湿度によってキャビネットやユニットの繊維部等吸湿しやすい素材の湿度は変化します。当然湿れば重く鳴りにくくなり、乾けば軽く鳴りやすくなります。つまり最適トルク値に季節による補正をかけることでより完璧なコントロールが可能となるわけです。

調整
それでは調整しましょう。全体に鳴りが多くなっていますので2.5宛上げていきます。52.5cN・mオール、かなりまとまってきますが低域のダンピングはもうすこし。55cN・mオール、いいでしょうこれに決定です。冬場の標準値はこれに決定です。

次回予告
いよいよS-520を店から連れ出します。その結果は